コラム
人材・組織マネジメントにおけるデータ活用で成果を上げるために必要なことを考えます
なぜ人事は、システム活用で自社の真の問題にたどり着けないのか? ~多すぎる外部からの情報、少なすぎる内部の情報~
2021.09.09
多すぎる外部からの情報
大量の「手段」「解決策」「方法論」「解決策」の情報が溢れている
「後継者選抜・育成」「目標管理・パフォーマンス管理」「適正配置支援」「キャリアの自律的マネジメント」「離職防止(リテンション)」「モチベーションアップ」「One on One ミーティング」「OKR」「パルスサーベイ」 「エンゲージメントサーベイ」「社内SNS」「Thanks Pointの交換」「心理的安全性の確保」 などなど・・・
こうした言葉は、人事界隈で仕事をしていたり、情報収集をしていたりすれば、日々目にしているのではないでしょうか。これらの本質は何かと考えると、「手段」「方法論」「解決策」です。つまり、世の中には「手段」「方法論」「解決策」の情報が、大量に溢れている、ということに気がつく必要があります。
では、これらは何のための手段なのか。それを明確にするには、そもそも事業会社の人事は何をする組織なのかに立ち戻って考える必要があるでしょう。いろいろな捉え方はあると思いますが、「自社の、短期・中期・長期のビジネス目標を達成し、経営理念を実現していくために、人材・組織の側面で支援を行うこと」を期待されていると言えます。つまり、「手段」や「方法論」「解決策」は、自社のビジネス目標・経営理念を実現していくために必要となるもの、ということになります。
しかし、ここに大きな落とし穴が待ち受けています。
先に挙げた「手段」「方法論」「解決策」は、どれも大変魅力的です。課題解決の「正解」に見えますし、否定することが難しい考え方も多く含まれています。特に「従業員のため」の要素が濃くなると、そのもの自体を否定することは不可能に近いものものもあります。では、そうした状況で何が起きてしまうのか。
自社の喫緊の課題を発見して解決していくためのプロセスを踏めていない
そもそも、自社にとって重要で、喫緊の課題を見つけていくためにはどうしていくべきなのでしょうか?
上記の図を使いながら、確認していきたいと思います。
◉ まずは、「現状把握」/一般論ではない。自社の状況を知ることから始める。
◉ 同時に、「ありたい姿の確認」/自社の目指すところを明確にして共有し、
達成への道筋を考える。
◉ 上記の二つが把握できたら、そこにある「GAPのあぶりだし」をする。
◉ そのことによって「問題・課題を把握」/一般論ではない、生々しい課題・問題に
迫る。
◉ ここまできて初めて「『手段』『方法論』『解決策』の検討」/自社に必要なものは
何かを考える。
こうしたプロセスが必要になります。
しかし、世の中に魅力的で正解に見える「手段」「方法論」「解決策」が溢れているために、重要な下準備を飛ばして、解決策の導入からスタートしてしまう、というケースが少なくないということです。そうだとしたら、ありたい姿、あるべき姿にたどり着けるか否か、甚だ心もとない限りです。
誰にも否定できない、魅力的な施策には慎重に取り組むべき
例えば、このような相談されることがあります。
「離職率を下げたいので、退職予測をしたい」
「これからはエンゲージメント向上が重要。それに成功している企業の話を聞きたい」
「キャリアを自律的に考えてもらうために、データをオープンにしていきたい」
これらのチャレンジ自体は否定されるべきことではありません。しかるべきステップを踏んでいれば、価値ある挑戦になりえます。しかし、以下のような問いや検証を行うことなく飛びついていたとしたら、成果が出ないだけではなく、逆効果を生み出すリスクもあることに気がつく必要があります。
「離職率を下げたいので、退職予測をしたい」
> すべての退職が、止めるべき退職だったのか検証されているか?
> 退職直前の状況を超えて、「止めるべき退職」の本当の理由を
仮説検証できているか?
> 退職率の高さが、今自社の人材マネジメントにとって一番優先順位の高い
課題・問題なのか?
◉ こうしたことが検証されていないと、本質からずれたリテンション対策を立ててしまったり、単なる対症療法で終わってしまう可能性が高い。
「これからはエンゲージメント向上が重要。それに成功している企業の話を聞きたい」
> 自社の業績向上や将来の発展を実現するための、一番のボトルネックになって
いるのは個々人のエンゲージメントなのか?
> 自社の社員のエンゲージメントを下げている理由を徹底的に分析・検証
しているか?
◉ エンゲージメントが高いに越したことはないことに疑いはないが、自社内にはその前に取り組む喫緊の課題・問題がある可能性がある。そのことがエンゲージメントを下げている可能性もあり、その点をはずしてのエンゲージメント向上策は対症療法でしかなくなる。他社の事例を聞くにしても、自社での課題に対して少なくとも仮説をもっていないと、「いい話を聞いた」という感想以上のものを得ることはできない。
「キャリアを自律的に考えてもらうために、データをオープンにしていきたい」
> 社員がキャリアを自律的に考えられるようになったとして、その意思を実現して
いくことができる制度や文化づくりにも同時に取り組んでいるか?
> 企業の未来を作っていくために、社員が自分では気がつけないポテンシャルを
発見・提示し、アサインできるような施策も同時に取り組めているか?
◉ 気持ちだけを盛り上げても、その受け皿がなければ、逆効果になりかねない。また、個々人の明示的な意思も重要だが、「今見えているもの」の枠から逃れにくい面もある。個々人の将来と会社の未来の望ましい交差点を探す努力がなければ、真の成果は望めない。
これらはあくまで一例ですが、「離職防止」「エンゲージメント」「社員キャリアの自律」は、誰にも否定できないテーマであり、これらがうまく回っていくに越したことはないことばかりです。それゆえに、これからの人材マネジメントには必須という論調が強く、自社で何をさておき取り掛からなくてはならないように思えてしまいます。そうした流れに流される前に、まずは「自社のこと」としてしっかりと手元に引き寄せたうえで、全体の中での位置づけや優先順位を整理し、取り組む方向性をデザインしていく必要があると強く感じています。
外部からの多すぎる情報が引き起こす問題
まとめとして、「外部からの多すぎる情報」が引き起こす問題について、整理します。
☼ 今、着手していることが、本当に自社の一番の課題・問題ではない可能性がある。
☼ 重要で、優先順位の高い課題を見逃している、放置している危険性がある。
☼ 経営・ビジネス・従業員に貢献できないだけでなく、逆効果(悪影響)を生み出す
リスクもある。
大量の「手段」「解決策」「方法論」「解決策」の情報が溢れている
「後継者選抜・育成」「目標管理・パフォーマンス管理」「適正配置支援」「キャリアの自律的マネジメント」「離職防止(リテンション)」「モチベーションアップ」「One on One ミーティング」「OKR」「パルスサーベイ」 「エンゲージメントサーベイ」「社内SNS」「Thanks Pointの交換」「心理的安全性の確保」 などなど・・・
こうした言葉は、人事界隈で仕事をしていたり、情報収集をしていたりすれば、日々目にしているのではないでしょうか。これらの本質は何かと考えると、「手段」「方法論」「解決策」です。つまり、世の中には「手段」「方法論」「解決策」の情報が、大量に溢れている、ということに気がつく必要があります。
では、これらは何のための手段なのか。それを明確にするには、そもそも事業会社の人事は何をする組織なのかに立ち戻って考える必要があるでしょう。いろいろな捉え方はあると思いますが、「自社の、短期・中期・長期のビジネス目標を達成し、経営理念を実現していくために、人材・組織の側面で支援を行うこと」を期待されていると言えます。つまり、「手段」や「方法論」「解決策」は、自社のビジネス目標・経営理念を実現していくために必要となるもの、ということになります。
しかし、ここに大きな落とし穴が待ち受けています。
先に挙げた「手段」「方法論」「解決策」は、どれも大変魅力的です。課題解決の「正解」に見えますし、否定することが難しい考え方も多く含まれています。特に「従業員のため」の要素が濃くなると、そのもの自体を否定することは不可能に近いものものもあります。では、そうした状況で何が起きてしまうのか。
「魅力的」で「正解」に思え、それ自体を否定することが難しいものばかりである。
「他社の成功事例」や「権威者のお墨付き情報」が溢れている。 (多くがサービス提供者から)
溢れる「手段」「方法論」「解決策」が解決の対象としている「課題」「問題」が、まるで自社でも優先順位の高い、重要な課題だと思えてしまう。
あくまで一般論やベストプラクティスであるはずの「手段」「方法論」「解決策」の導入が目的化してしまう。
つまり、自社にとって真に優先順位の高い課題が何かを突き詰めて考える以前に、解決策を選定して実行している可能性がある、ということです。そうなっているとしたら、活動が継続しない、成果が出せないというのは当然のことです。これが、「多すぎる外部からの情報」がもたらす大きなリスクです。「他社の成功事例」や「権威者のお墨付き情報」が溢れている。 (多くがサービス提供者から)
溢れる「手段」「方法論」「解決策」が解決の対象としている「課題」「問題」が、まるで自社でも優先順位の高い、重要な課題だと思えてしまう。
あくまで一般論やベストプラクティスであるはずの「手段」「方法論」「解決策」の導入が目的化してしまう。
自社の喫緊の課題を発見して解決していくためのプロセスを踏めていない
そもそも、自社にとって重要で、喫緊の課題を見つけていくためにはどうしていくべきなのでしょうか?
上記の図を使いながら、確認していきたいと思います。
◉ まずは、「現状把握」/一般論ではない。自社の状況を知ることから始める。
◉ 同時に、「ありたい姿の確認」/自社の目指すところを明確にして共有し、
達成への道筋を考える。
◉ 上記の二つが把握できたら、そこにある「GAPのあぶりだし」をする。
◉ そのことによって「問題・課題を把握」/一般論ではない、生々しい課題・問題に
迫る。
◉ ここまできて初めて「『手段』『方法論』『解決策』の検討」/自社に必要なものは
何かを考える。
こうしたプロセスが必要になります。
しかし、世の中に魅力的で正解に見える「手段」「方法論」「解決策」が溢れているために、重要な下準備を飛ばして、解決策の導入からスタートしてしまう、というケースが少なくないということです。そうだとしたら、ありたい姿、あるべき姿にたどり着けるか否か、甚だ心もとない限りです。
誰にも否定できない、魅力的な施策には慎重に取り組むべき
例えば、このような相談されることがあります。
「離職率を下げたいので、退職予測をしたい」
「これからはエンゲージメント向上が重要。それに成功している企業の話を聞きたい」
「キャリアを自律的に考えてもらうために、データをオープンにしていきたい」
これらのチャレンジ自体は否定されるべきことではありません。しかるべきステップを踏んでいれば、価値ある挑戦になりえます。しかし、以下のような問いや検証を行うことなく飛びついていたとしたら、成果が出ないだけではなく、逆効果を生み出すリスクもあることに気がつく必要があります。
「離職率を下げたいので、退職予測をしたい」
> すべての退職が、止めるべき退職だったのか検証されているか?
> 退職直前の状況を超えて、「止めるべき退職」の本当の理由を
仮説検証できているか?
> 退職率の高さが、今自社の人材マネジメントにとって一番優先順位の高い
課題・問題なのか?
◉ こうしたことが検証されていないと、本質からずれたリテンション対策を立ててしまったり、単なる対症療法で終わってしまう可能性が高い。
「これからはエンゲージメント向上が重要。それに成功している企業の話を聞きたい」
> 自社の業績向上や将来の発展を実現するための、一番のボトルネックになって
いるのは個々人のエンゲージメントなのか?
> 自社の社員のエンゲージメントを下げている理由を徹底的に分析・検証
しているか?
◉ エンゲージメントが高いに越したことはないことに疑いはないが、自社内にはその前に取り組む喫緊の課題・問題がある可能性がある。そのことがエンゲージメントを下げている可能性もあり、その点をはずしてのエンゲージメント向上策は対症療法でしかなくなる。他社の事例を聞くにしても、自社での課題に対して少なくとも仮説をもっていないと、「いい話を聞いた」という感想以上のものを得ることはできない。
「キャリアを自律的に考えてもらうために、データをオープンにしていきたい」
> 社員がキャリアを自律的に考えられるようになったとして、その意思を実現して
いくことができる制度や文化づくりにも同時に取り組んでいるか?
> 企業の未来を作っていくために、社員が自分では気がつけないポテンシャルを
発見・提示し、アサインできるような施策も同時に取り組めているか?
◉ 気持ちだけを盛り上げても、その受け皿がなければ、逆効果になりかねない。また、個々人の明示的な意思も重要だが、「今見えているもの」の枠から逃れにくい面もある。個々人の将来と会社の未来の望ましい交差点を探す努力がなければ、真の成果は望めない。
これらはあくまで一例ですが、「離職防止」「エンゲージメント」「社員キャリアの自律」は、誰にも否定できないテーマであり、これらがうまく回っていくに越したことはないことばかりです。それゆえに、これからの人材マネジメントには必須という論調が強く、自社で何をさておき取り掛からなくてはならないように思えてしまいます。そうした流れに流される前に、まずは「自社のこと」としてしっかりと手元に引き寄せたうえで、全体の中での位置づけや優先順位を整理し、取り組む方向性をデザインしていく必要があると強く感じています。
外部からの多すぎる情報が引き起こす問題
まとめとして、「外部からの多すぎる情報」が引き起こす問題について、整理します。
☼ 今、着手していることが、本当に自社の一番の課題・問題ではない可能性がある。
☼ 重要で、優先順位の高い課題を見逃している、放置している危険性がある。
☼ 経営・ビジネス・従業員に貢献できないだけでなく、逆効果(悪影響)を生み出す
リスクもある。