コラム
人材・組織マネジメントにおけるデータ活用で成果を上げるために必要なことを考えます
人事まわりのデータだけで十分なのか?「人材データ統合マネジメント」に真剣に取り組む必要性
2021.08.06
昨今「人材データの活用」が叫ばれ、真剣に取り組もうとする企業も増えています。しかし、個別の事象に対しては何らかの示唆を得られたとしても、それが継続的な活動になっていかず、期待するような成果を上げられていないケースも少なくないようです。
そうなってしまっている大きな理由のひとつは、人事まわりにあるデータの範囲で完結してしているために、それが自社の経営やビジネスとどうつながるのかという自社のストーリーが描けない状態になっているからです。人材データ活用を、真に実効性のある、価値あるものにしていくためには、「経営視点」と連携させていく視点を持たない限り、せっかく時間とお金をかけた取り組みが中途半端なもの、もしくは時に害にもなりかねない危険性があります。
既存の「人事」のマインドセットをアップデートする必要がある
2020年9月に経済産業省から「人材版伊藤レポート・持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」が発表されましたが、そこではこんなことが書かれています。
「人事部は管理部門として人事施策のオペレーションを中心に担ってきた。今後、この役割を大胆に見直し、ビジネスの価値創造をリードする機能を担っていく必要がある。」
「CHROは、果たすべき役割が従来の人事部長とは異なるため、人事部門出身者であることを前提とせず、事業部等での幅広い経験や経営戦略と人材戦略を結び付ける専門性をもった人材を選任する必要がある。」
ここでは、人事の役割を見直す必要がある、ということが明確に提言されています。また、ビジネスの価値創造をリードする、経営戦略と人材戦略を結びつける、という役割が期待されています。
また、2020年8月、米国SECの義務化決定から始まった「人的資本の情報開示」の流れからあぶりだされてくることは、「人的資本は、投資家が企業価値を見極めるための重要な要素である。」つまり、「人事は投資家に対して納得のいく説明ができることが求められる。」「説明責任があるということは、人的資本の価値向上に対して責任がある。」ということです。つまり、人事の仕事は、人的資本という無形資産を通じて企業価値を上げていくために重要な役割を果たす、果たすべきであるというメッセージが込められている、と言えるでしょう。
こうしたことから、人事に関わる人は、人材マネジメントへの期待が、まったく新しい領域に入ったと自覚すべきです。その要請に応えていくためには、「人事」という言葉から想定される枠を超えて、マインドセットをアップデートする必要があります。
では、どういう方向性でマインドセットをアップデートしていくのがいいのか?それは、以下のような意識を持ったうえで、活動をしていくということだと考えます。
具体的には、今行っている活動が、経営やビジネスにどうつながっていくのかを、一般論ではなく、自社内で納得されるストーリーとして語れること。そして、その結果に、責任を負う覚悟ができていること、ということになります。精神論のように響くかもしれませんが、実はこの意識が活動の成否を決める重要な土台だと痛感しています。「専門家が良いと言っている」とか、「アメリカではこういったことが成功を収めている」といった表層的な理解のレベルで満足せず、結果責任を負うという真剣さを持つことが重要です。
こうした意識に支えられた活動に実効性を持たせていくためには、「経営層・ビジネスの責任者が、重要な事項について判断・決断するために必要となる、人材と組織の情報を提供できる人・組織になる」必要があります。現状を知ってもらい、真の課題を見極め、そのうえで経営判断・事業上の判断をしてもらうためです。もちろん、その先には、自ら判断のできるレベルのプロフェッショナルになるというゴールがあると思いますが、そうなったときにも、適切なデータが活用できる、ということは必須の土台となります。
では、そうなるためにはどうしたらいいのでしょうか?それは、まず、狭義の「人材データ」、今人事部の手元にあるデータだけを見ていても不十分だ、ということに気がつくことです。「人事が扱うのは通常こういうデータである」という固定概念を打ち砕き、経営層・ビジネスの責任者人や組織に関して重要な判断をする際に必要となるデータであれば、どのような情報でも扱う、という意識の大転換が必要です。その点については、次章で具体的にみていきます。
経営に資するために、「人材データ統合マネジメント」の実現を真剣に考える
現在、「人材データ活用」「ピープルアナリティクス」と言われる取り組みをみると、基本的に人事で持っているデータの範囲で行っているケースが多く見受けられます。そこから見えてくることもあると思いますが、「経営層・ビジネスの責任者が、重要な事項について判断・決断するために必要となる、人材と組織の情報を提供できる人・組織」になっていくためには、人事の枠を超えて、経営戦略との整合性や経営目標・ビジネス目標といった領域まで視野に入れる必要があります。
人や組織に関わる情報は、会社内の様々なところに存在しています。人事領域だけでなく、経営企画、財務・会計、事業・ビジネスといった領域でも、人や組織の情報が発生し、それぞれが活用をしています。経営に貢献し、ビジネス・経営の目標達成に直接的な責任を負っていくためには、こうした情報を総合的に一元化し、包括的に活用していくことが求められます。
そのために提案したいのは、人と組織に関わるデータを統合・活用することをミッションとする機能(組織)を持つことです。そこでは既存の「人事」という枠の中で考えるのではなく、各部署がしっかり連携をして、包括的にデータ活用を推進していきます。
この機能(組織)は、単に外部からの依頼ベースで仕事をするのではなく、人材・組織関連のデータ活用を通じて、新しい価値を生み出していくことを目指します。そのためには、経営やビジネスの観点での活用を考える企画機能(チーム)と、それに対して最適な手法を選択し、実際にデータを分析・解析できるアナリティクス機能(チーム)が両輪となって活動を進めることが理想です。狭義の「ピープルアナリティクス」を超えて、「人と組織の総合的なアナリティクス」の実現を目指します。
こうした組織が機能することで、以下のようなことを実現することができます。
「人材版伊藤レポート」でも言われていましたが、今後、CHROは経営のコアメンバーとして、CEO/COO/CFO/CSOと密接に連携してくことが必須となっていきます。その際に、各CxxOが、同じ土俵に立って、同じエビデンスを確認しながら、齟齬なくスピーディーに意思決定をしていくためにも、こうした機能が必須のインフラとなっていくはずです。
ただし、実際には、こうした機能をすぐに立ち上げて、フル稼働させることは難しいのが現実でしょう。ではどうしたらいいのか。自社内で明示的に課題になっている部分からスタートして、その実効性をベースに拡大していく、というのが現実的だと考えています。例えば、
◉ 財務・会計と連動した精緻な人件費管理
◉ 経営計画と連動した、要員・人件費シミュレーション
◉ 「仕事」「組織」の観点を加味した人材・組織レポート
◉ 行動特性など個人データと組織ミッション・組織の成果をクロス分析
といった取り組みです。自社では、どういうスタートが切れるのか、是非考えてみてください。そして、自社にとっての価値を生み出せる、「人材データ統合マネジメント」の実現を目指していただきたいと思います。
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◆併せてお読みください
そうなってしまっている大きな理由のひとつは、人事まわりにあるデータの範囲で完結してしているために、それが自社の経営やビジネスとどうつながるのかという自社のストーリーが描けない状態になっているからです。人材データ活用を、真に実効性のある、価値あるものにしていくためには、「経営視点」と連携させていく視点を持たない限り、せっかく時間とお金をかけた取り組みが中途半端なもの、もしくは時に害にもなりかねない危険性があります。
既存の「人事」のマインドセットをアップデートする必要がある
2020年9月に経済産業省から「人材版伊藤レポート・持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」が発表されましたが、そこではこんなことが書かれています。
「人事部は管理部門として人事施策のオペレーションを中心に担ってきた。今後、この役割を大胆に見直し、ビジネスの価値創造をリードする機能を担っていく必要がある。」
「CHROは、果たすべき役割が従来の人事部長とは異なるため、人事部門出身者であることを前提とせず、事業部等での幅広い経験や経営戦略と人材戦略を結び付ける専門性をもった人材を選任する必要がある。」
ここでは、人事の役割を見直す必要がある、ということが明確に提言されています。また、ビジネスの価値創造をリードする、経営戦略と人材戦略を結びつける、という役割が期待されています。
また、2020年8月、米国SECの義務化決定から始まった「人的資本の情報開示」の流れからあぶりだされてくることは、「人的資本は、投資家が企業価値を見極めるための重要な要素である。」つまり、「人事は投資家に対して納得のいく説明ができることが求められる。」「説明責任があるということは、人的資本の価値向上に対して責任がある。」ということです。つまり、人事の仕事は、人的資本という無形資産を通じて企業価値を上げていくために重要な役割を果たす、果たすべきであるというメッセージが込められている、と言えるでしょう。
こうしたことから、人事に関わる人は、人材マネジメントへの期待が、まったく新しい領域に入ったと自覚すべきです。その要請に応えていくためには、「人事」という言葉から想定される枠を超えて、マインドセットをアップデートする必要があります。
では、どういう方向性でマインドセットをアップデートしていくのがいいのか?それは、以下のような意識を持ったうえで、活動をしていくということだと考えます。
ビジネス・経営の目標達成に直接的な責任を負う。
会社の将来の発展に直接的な責任を負う。
具体的には、今行っている活動が、経営やビジネスにどうつながっていくのかを、一般論ではなく、自社内で納得されるストーリーとして語れること。そして、その結果に、責任を負う覚悟ができていること、ということになります。精神論のように響くかもしれませんが、実はこの意識が活動の成否を決める重要な土台だと痛感しています。「専門家が良いと言っている」とか、「アメリカではこういったことが成功を収めている」といった表層的な理解のレベルで満足せず、結果責任を負うという真剣さを持つことが重要です。
こうした意識に支えられた活動に実効性を持たせていくためには、「経営層・ビジネスの責任者が、重要な事項について判断・決断するために必要となる、人材と組織の情報を提供できる人・組織になる」必要があります。現状を知ってもらい、真の課題を見極め、そのうえで経営判断・事業上の判断をしてもらうためです。もちろん、その先には、自ら判断のできるレベルのプロフェッショナルになるというゴールがあると思いますが、そうなったときにも、適切なデータが活用できる、ということは必須の土台となります。
では、そうなるためにはどうしたらいいのでしょうか?それは、まず、狭義の「人材データ」、今人事部の手元にあるデータだけを見ていても不十分だ、ということに気がつくことです。「人事が扱うのは通常こういうデータである」という固定概念を打ち砕き、経営層・ビジネスの責任者人や組織に関して重要な判断をする際に必要となるデータであれば、どのような情報でも扱う、という意識の大転換が必要です。その点については、次章で具体的にみていきます。
経営に資するために、「人材データ統合マネジメント」の実現を真剣に考える
現在、「人材データ活用」「ピープルアナリティクス」と言われる取り組みをみると、基本的に人事で持っているデータの範囲で行っているケースが多く見受けられます。そこから見えてくることもあると思いますが、「経営層・ビジネスの責任者が、重要な事項について判断・決断するために必要となる、人材と組織の情報を提供できる人・組織」になっていくためには、人事の枠を超えて、経営戦略との整合性や経営目標・ビジネス目標といった領域まで視野に入れる必要があります。
人や組織に関わる情報は、会社内の様々なところに存在しています。人事領域だけでなく、経営企画、財務・会計、事業・ビジネスといった領域でも、人や組織の情報が発生し、それぞれが活用をしています。経営に貢献し、ビジネス・経営の目標達成に直接的な責任を負っていくためには、こうした情報を総合的に一元化し、包括的に活用していくことが求められます。
そのために提案したいのは、人と組織に関わるデータを統合・活用することをミッションとする機能(組織)を持つことです。そこでは既存の「人事」という枠の中で考えるのではなく、各部署がしっかり連携をして、包括的にデータ活用を推進していきます。
この機能(組織)は、単に外部からの依頼ベースで仕事をするのではなく、人材・組織関連のデータ活用を通じて、新しい価値を生み出していくことを目指します。そのためには、経営やビジネスの観点での活用を考える企画機能(チーム)と、それに対して最適な手法を選択し、実際にデータを分析・解析できるアナリティクス機能(チーム)が両輪となって活動を進めることが理想です。狭義の「ピープルアナリティクス」を超えて、「人と組織の総合的なアナリティクス」の実現を目指します。
こうした組織が機能することで、以下のようなことを実現することができます。
✔ 経営に対して :経営判断のための情報提供
✔ 経営企画に対して :経営計画の立案・修正のための情報提供
✔ 財務・会計に対して:適正な原価管理、予算管理のための情報提供
✔ 現場に対して :現場組織が適切に機能し年間予算を達成していくための支援
✔ 従業員に対して :適正な人事制度の運用や従業員の人材としての価値を
向上させていくための支援
✔ 株主に対して :人的資本に関しての適切な情報提供
✔ 経営企画に対して :経営計画の立案・修正のための情報提供
✔ 財務・会計に対して:適正な原価管理、予算管理のための情報提供
✔ 現場に対して :現場組織が適切に機能し年間予算を達成していくための支援
✔ 従業員に対して :適正な人事制度の運用や従業員の人材としての価値を
向上させていくための支援
✔ 株主に対して :人的資本に関しての適切な情報提供
「人材版伊藤レポート」でも言われていましたが、今後、CHROは経営のコアメンバーとして、CEO/COO/CFO/CSOと密接に連携してくことが必須となっていきます。その際に、各CxxOが、同じ土俵に立って、同じエビデンスを確認しながら、齟齬なくスピーディーに意思決定をしていくためにも、こうした機能が必須のインフラとなっていくはずです。
ただし、実際には、こうした機能をすぐに立ち上げて、フル稼働させることは難しいのが現実でしょう。ではどうしたらいいのか。自社内で明示的に課題になっている部分からスタートして、その実効性をベースに拡大していく、というのが現実的だと考えています。例えば、
◉ 財務・会計と連動した精緻な人件費管理
◉ 経営計画と連動した、要員・人件費シミュレーション
◉ 「仕事」「組織」の観点を加味した人材・組織レポート
◉ 行動特性など個人データと組織ミッション・組織の成果をクロス分析
といった取り組みです。自社では、どういうスタートが切れるのか、是非考えてみてください。そして、自社にとっての価値を生み出せる、「人材データ統合マネジメント」の実現を目指していただきたいと思います。
(完)
2021年8月6日
◆併せてお読みください
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