コラム
人材・組織マネジメントにおけるデータ活用で成果を上げるために必要なことを考えます
何故、「タレントマネジメントシステム」で成果を出せなかったのか?今、日本の人事が求めるべきシステムとは?
2018.03.30
【自社のタレントマネジメントはベストプラクティスに合わせる形で本当に経営に貢献できるのか】
まず、1つ目の「自社のタレントマネジメントはベストプラクティスに合わせる形で本当に経営に貢献できるのか」について整理してみよう。
そもそも何のために、時間とお金をかけてまで「タレントマネジメント」に取り組むのかと言えば、企業が市場での競争優位を保ち、売上利益を上げていくために、人材・組織の環境を常に最適化していく必要があるからだろう。
つまり、「タレントマネジメント」は、運用業務の話ではなく、戦略の話だということだ。
では、戦略とはどういうものか。事業会社であれば、大きく変化する市場を相手にするビジネスへの貢献を担う活動である。たとえ他社と同じようなビジネスをしていたとしても、各社の製品特性や市場でのポジショニングは違う。そして扱うのは人や組織。自社のビジネスのミッション、ビジネスモデル、それを実行する人材・組織が、他社とまったく同じということはあり得ない。つまり、「変化と独自性」に機敏に対応していくこと」が求められる世界だと言えるだろう。
つまり、標準化やベストプラクティスへの適合という考え方とは、本質的には相性が良くないのである。
もちろん、すべてがまったくユニーク、ということではない。例えば、目標管理(パフォーマンス管理)をしたい。キャリア申告をしてもらいたい。後継者選抜・育成をしたい・・・。といったレベルのことは、大枠で共通しているケースが多い。しかし、その具体的な中身は、各社が置かれた状況や目指すものによって、大きく変わってくる。そのどこまでをベストプラクティスとしてパッケージ化し、残る「独自性と変化」に対してどのような仕組みを提供することで対応していくのか、というのがパッケージベンダーの腕の見せ所になる。正直、そのレベルはベンダーによって大きな差がある。しかし、そうしたことは、実際に使ってみないとわからないことも多いというのが悩ましいところだ。
ユーザーとしてできることは、自分たちがシステムでサポートしたい分野(戦略)の性質と、システムの性質(ベストプラクティスの集合体)の本質的な相性の悪さを理解した上で、それぞれのベンダーのタレントマネジメントへの理解力と技術力、変化と独自性への対応力を、冷静に見極めるということになる。簡単なことではないが、システムを使って経営・ビジネスに貢献していこうと考えているのであれば、この部分にはこだわることの意味は大きい。
【今経営に貢献できる人材・組織マネジメントをしていくために必要な武器は、どういうものなのか】
2つ目の「今経営に貢献できる人材・組織マネジメントをしていくために必要な武器は、どういうものなのか」はどうだろうか。
この14年、多くの人事担当者の方々にお会いしてきた。そこで見てきたのは、Excel(時にはAccessやFileMaker)で、資料を作り続けている人が本当に多い、という実状だ。経営層やビジネスの現場から要請されると、人事システムからローデータを取り出し、指示された内容に従ってデータ加工をし、資料に仕上げていく。こうした対処療法的な資料作成のために、人事担当者の時間(=人件費)が大量に使われていることを以て、人事がビジネスに貢献している、と言えるのだろうか。
昨今、人事に潤沢な人員が配置されている企業は決して多くない。そんな貴重な人材が、何らかのシステムが入っているのにも関わらず、頭を使うのではなく、手を動かすことに時間を取られているのである。人件費の有効な使い道とはいい難い。本来使われるべきことに時間が使われていないという、いわば"逸失利益"が発生していると言ってもいいのではないかと思う。
つまり、システム(IT技術)に投資をするのであれば、そもそもまず、人材マネジメントに関わる人材が手を動かさなくてはならない時間を省力化することに資する、という観点が必要である。「タレントマネジメントシステム」というイメージから入ってしまうと、この点が見過ごされていることが多い。そうなると、高機能のシステムを入れたのに、それを十分に活用するだけの時間がない、ということになってしまう。
そして、その実現によってつくりだされた時間を有効にするためのデータ活用が柔軟に行えるのか、という点も重要である。自分たちの試行錯誤や仮説検証のために必要なデータを、自在に取り出すことができることが望ましい。
つまり、
この両輪を回すことができるシステムが求められているのである。そのためには、どのような仕組みが必要なのか、という発想を持ってシステムを選ぶことで、人事の業務の質が大幅に上がる可能性が高まる。
「人事にシステムを導入するなんて、人事が楽になるだけだ。頭数が減らせないなら投資に値しない」と言われることがある。確かに、人事には対処療法的な仕事のみを期待していて、モノを考え、ビジネスの成功のために行動することなど求めていないということであれば、それは正論である。しかし、恐らくこれからの多くの日本企業にとって、人材の確保・リテンション・そうした人材一人ひとりに活躍してもらうことは、ビジネスの成功を継続するために、大変重要な要素になっているはずだ。
若年労働者は減っていく、高齢社員は増えていく、性別・国や文化の違い、価値観の違いといった、様々な多様化が進む・・・・。こうした課題をひとつひとつクリアしていくことが、待ったなしで求められるだろう。
つまり、これからの人事機能に対しては、ますます高度化、複雑化、そしてスピード感と長期的視野の共存が求められるはずだ。だとすれば、人事に関わる人たちには、付加価値を生み出さない仕事から解放され、「楽」になってもらう必要がある。上司や現場から言われたことに応えるためにだけに時間に追われ、Excelと格闘することはできるだけ省力化するのだ。RPAの導入も視野に入ってくるかもしれない。そしてそこで手にした時間で、自ら考え、行動し、結果を出すことが求められる。つまり、人事は今までとはまったく質の異なる要求や期待に直面し、仕事の質を大きく変えていくことになる。
適切なシステムを入れると、「システムを入れると人事が楽になる」のではなく、
「システムを入れると人事は質的に大変になる」のである。